来年の東京オリンピックにおける日本の対戦相手を紹介していく企画「メトロアナリストレポート ~ホッケーを10倍楽しむ!オリンピック出場チームを徹底分析!!」を進行中です。
今回ご紹介する対戦相手は、世界ランキング9位の「男子スペイン代表」。
まずは、サマリー編として、男子スペイン代表のホッケーの特徴と、オリンピックで対戦する日本代表の戦い方について、ギュッとコンパクトにまとめてご紹介していきます。
目次
男子スペイン代表ってどんなチーム?
男子スペイン代表は世界ランキング9位で、日本代表(同15位)が東京オリンピック2020のグループリーグで戦う相手国の中で最も下位のチームです。決勝トーナメントへ進出するためには必ず勝たなければならない相手となります。
Redsticksの愛称で呼ばれる男子スペイン代表は、ホッケーが盛んなヨーロッパを代表する強豪国の一つです。ホッケーW杯には1971年の第1回から毎回出場しており、準優勝に2回(71年・98年)輝き、オリンピックでは銀メダルを3回(80年モスクワ、96年アトランタ、08年北京)、銅メダルを1回(60年ローマ)獲得しています。また、昨年の欧州選手権の準優勝国であり、過去17大会のうち優勝2回、準優勝3回を誇る古豪です。
世界ランク上位のみが集うプロリーグの2019年シーズンでは2勝7敗5分の7位(8カ国中)に甘んじているように、近年は世界ランクが8位〜11位に低迷していますが、10年程前には3位まで登り詰めた実力を有しています。
現在招集されているスペイン代表には大きな特徴が2点あります。
①選手層の二極化
1点目は、経験豊富な選手とそうでない選手に二極化していることです。ゲーム分析を行った今年2/7のアルゼンチン戦において、スタメン選手の平均年齢は30.7歳、平均代表試合数173試合と経験豊富な選手で固められているのに対し、控え選手の平均年齢は22.4歳、平均代表試合数37試合というように、多くの若い選手がベンチを温めていました。男子スペイン代表チームにとって、新旧の融合・世代交代が現在・将来の課題と言えそうです。
②得点源がペナルティコーナー
2点目は得点源がペナルティコーナーであることです。得点源となるように強化してきたと言った方が正確かもしれません。2019年1月〜6月に行われたプロリーグ2019で得点した全33得点のうち、ペナルティコーナーで奪った得点は7得点(21%)でしたが、2019年8月の欧州選手権では全11得点中5得点(45%)、2020年1月〜2月のプロリーグ2020では19得点中11得点(57%)と、ペナルティコーナーでの得点力が格段に上がってきています。精度の高いフリックショットには要注意です。
男子スペイン代表の特徴
今回は「2020.2.7 FIH Pro League アルゼンチン対スペイン」を元に、スペインのホッケーを独自に分析しました。。
分析の結果、以下の3つの特徴があることがわかりました。
特徴① 自陣でパスを多く回し、攻撃を組み立てる
- 自陣で細かくパスを回す
- 中盤がハブとなって攻撃を組み立てる
- サッカーのスペイン代表と近い戦術!?
後半はじめから勢いよくプレスをかけてくるアルゼンチンに対して、隙を掻い潜るように中盤を使いパスを回すスペイン。
相手のディフェンスが寄ったところをフルバックにボールを返しながら、攻撃の糸口を探す。
チャンスを見逃さずMFが前を向き、テンポよくサイドへとボールをつなぐ。
特徴② 中盤エリアで囲んで奪う
- 中盤エリアで相手を囲み、ボールを奪う
- FWは積極的にバックディフェンス
アルゼンチンのリスタートに、スペインの選手が素早く反応し、プレスをかけてアルゼンチンの攻撃スピードを落とす。
そこに、スペインFWがバックプレスを仕掛けて二人で挟みこみ、厳しくプレッシャーをかけて、相手に余裕を与えない。
結果、相手のミスを誘い、ボール奪取に成功する。
特徴③ ペナルティコーナー(PC)狙いの攻撃
- ペナルティコーナーはスペインの得点源
- ペナルティコーナー狙いの攻撃が目立つ
スペインは自陣のフリーヒットからプレーを再開。前線への絶妙なスクープパスにより相手のFW、MFを一気に消し去る。
連携プレーで相手の守備を崩してサークルインすると、エンドラインからゴール前へセンタリングし、相手のミスによりペナルティコーナーを獲得する。
アルゼンチンの守備は1番騎はシューター、2,3番騎はバリエーションの警戒、4番騎とGKはゴールを守る布陣(1-3の陣形)。
対するスペインはダブルストッパーの布陣(シューターを2セット用意し、相手に的を絞らせない陣形)。
スペインのパッサーが左側ストッパーへ正確にパスを送り、#25ケマーダ が豪快にフリックシュートを放つ。
一度はアルゼンチンGKの好守に阻まれるも、リバウンドを#21ルイス が拾い、豪快なヒットシュートでゴールを決める。
日本はどのように戦うべきか
私たちの分析結果から、スペインのホッケーは、
・守備は中盤エリアで囲みボールを奪う
・攻撃は自陣でボール回しながらリズムを作り、スペースを使って攻める
・最後はペナルティコーナーで得点する
ということがわかりました。
スペインの闘牛士のように、ひらりひらりと相手を受け流すパス回しはさすが強豪国と思わせます。
世界ランキング上位だった10年前から変わらないホッケースタイルです。
そんな男子スペイン代表を相手に、日本はどのように戦うべきなのでしょうか。
そのヒントを私たちなりに考えてみました。
①中盤エリアへのパスを狙う
スペイン代表は中盤エリアでのパス回しが多いという特徴がある。
当企画で、これまで見てきたオーストラリア代表、ベルギー代表、アルゼンチン代表と比較して、1.5倍近く多い。
パス回しの流れを止めることができれば、スペイン代表の攻撃リズムを狂わせることができる。そのためには、スペインMFへの強いプレッシャーが不可欠となるだろう。
②中盤で囲むプレスは脅威だが詰めが甘い
中盤で囲むプレスは日本代表にとって脅威となる。
しかし、今回のアルゼンチン戦を分析すると、50%はプレスを突破されていることが分かった。
スペインは中盤エリアで人数をかけて守っているため、日本代表が突破できればチャンスとなる。50%という数字はスペインの詰めの甘さを表していると考えられる。
日本代表も同じようにプレスを突破できる可能性が十分にあるだろう。
③ペナルティコーナーのパターンに偏りがある
スペイン代表のペナルティコーナーについて、FIHプロリーグ2020シーズンの過去8試合すべてを確認したところ、ペナルティコーナーのフィニッシュのパターンに偏りがあることが分かった。
シューターは#25ケマーダ が中心であり、攻撃側から見てゴール右上へのフリックシュートを打つ傾向があるようだ。
日本代表がペナルティコーナーを守る際は、この傾向を踏まえて守りを固めると失点を抑えることができるだろう。
ペナルティコーナーは戦術要素が強いセットプレーのため、攻撃のフィニッシュパターン、守備の陣形に注目してほしい。
最後に
最後まで記事を読んでいただき、ありがとうございます。
男子スペイン代表のホッケーについて理解は深まったでしょうか。
今回、私たちは過去の試合から1試合を抽出し、ゲーム分析によってその特徴を導き出しました。
しかしながら、戦術は対戦相手に合わせて変えるものであり、日本が対戦する際に当記事の内容がそのまま当てはまるとは限りません。その点はご了承いただければと思います。
最後に、このような企画を進めるにあたって、メトロ東京ホッケー&アスリートクラブ以外の方々にも多大な協力をいただきました。この場を借りて感謝を申し上げます。
引き続き、オリンピックまでの残り1年かけて、日本の対戦国を知るキッカケとなる情報を提供していきます。
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