<男子>オーストラリア代表を徹底分析! Vol.3 スタッツ編 その2:戦術分析

今回は、前回(Vol.2 スタッツ編 その①ゲーム展開)で語った内容から、さらに踏み込んで戦術観点からオーストラリアの特徴を読み解きます。

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戦術観点からオーストラリアの特徴を読み解く

今回の分析対象は、2019年FIHプロリーグ決勝戦のオーストラリア対ベルギー戦です。
「定性分析(数値だけで表しきれない主観的なデータをもとに行う分析)」「定量分析(数値データをもとに行う分析)」の双方の観点から戦術分析を行い、オーストラリアの特徴を読み解きます。

試合の動画はこちら!

2019.6.30 FIH Pro League オーストラリア対ベルギー

https://fih.live/

【アクセス方法】HOME > FIH Pro League Men > 2019.6.30 Australia vs Belgium

分析結果

分析の結果、以下3つの特徴があることがわかりました。

特徴① ホッケーのお手本のような中央を経由したサイド攻撃

  • 自陣はアウトレットを多用するが、そこから中央を経由してサイドへボールを散らし、サークル侵入を狙っている。外→中→外という攻撃はホッケーのお手本のようである
  • 強引にでも右サイドから攻撃するように見受けられ、ホッケーのセオリー(※)通りの攻撃である。
    ※ホッケーは右利き用のスティックしかなく、右サイドでボールを持つのが有利とされている。

[定性分析]

プレスを巧みにかわす華麗なアウトレット (0:29:32~0:29:48)

自陣でのアウトレットはフルバック2枚、低めに位置しているMF2枚を中心に組み立て、そこからセンターライン付近にいるサイドハーフへとボールを展開している。
MFとフルバックの3人で三角形を形成して数的優位を作り、テンポの早いパスでベルギーのプレッシャーを回避している。一度、逆方向にボールを振ったことで相手のプレスが崩れており、それを見逃さず、再び同じMFにボールが渡ることで相手のプレスを打開することに成功している。
そこから、テンポよくサイドへボールを展開することで、相手のプレッシャーが少ないサイドから安全に相手陣地へとボールを運んでいる。
他のシーンでも、オーストラリアはフルバックから逆サイドMFへのパスを多用しており、プレスの的を絞らせない効果的な配球をしている。

[定量分析]

「サイド別ペネトレーション」攻撃開始、アタック(23m侵入を試みた回数)、23m侵入、サークル侵入を、3つの区分け(左、中央、右)で侵入回数をカウントしたデータ。
「中央エリアを起点とする攻撃方向」中央を経由してサイド攻撃に遷移していることを示すため、敵陣50-75ヤードの中央エリアからどのエリアに移動したのかを、前方、後方、左右でカウントしたデータ。
という2つの指標を確認していきます。

「サイド別ペネトレーション」を見てみると、中央でボールを奪って攻撃開始し、そのあとサイドから23m侵入していることがわかる。特に右サイドから攻める傾向がある。
「中央エリアを起点とする攻撃方向」を見ると、多くが中央エリア(50-75ヤード)から左右へ遷移しており、中央を経由しサイドから攻撃していることがよくわかる。

さらに、サイド別ペネトレーションのうち、
「攻撃開始サイド比率」攻撃開始した位置について、中央寄りであれば0%、サイド寄りであれば100%で示した指標。
「アタックサイド比率」アタックした(23m侵入を試みた)位置について、中央寄りであれば0%、サイド寄りであれば100%で示した指標。
「23m侵入成功率」23m侵入が成功した回数/アタックした(23m侵入を試みた)回数。
「攻撃あたりの移動距離」厳密には距離ではなく、コートを横3、縦4で区分けた12エリアの通過数のこと。攻撃あたりのエリア通過数。イメージのしやすさから移動距離と表現した。
をクオーター単位で細かく見ていく。

2Q以降は23m侵入が大幅に低下している。
また、攻撃あたりの移動距離(経由するエリア通過数)も同様に減少しており、2Q以降はオーストラリアの攻撃リズムが明らかに転調していることがうかがえる。
そのヒントは動画1Qと2Qの間のタイムアウト中のベルギーベンチの会話に隠されていた。この時、ベルギーコーチがオーストラリアのセンターバックへのプレッシャーを強めること、プレスの際に左右へのパスを分断することを指示している。
このベルギーの戦術変更により、2Q以降のオーストラリアの攻撃がうまくいかなかったと考えられる。しかし、この時点で2点差のリードを得ていたオーストラリアはリードを守り切り勝利した。

特徴② 堅守速攻

  • 1点目、2点目ともに堅守からの速攻による得点であった。
  • 組織的に守ることで相手をサークルに寄せ付けていなかった。

[定性分析]

電光石火のショートカウンター (0:35:45〜0:36:02)

このシーンのオーストラリアのプレスは、FWがセンターラインまで引いて低く守っている。ちょうど、ベルギーのセンターハーフに対して、オーストラリアのFW2人とMF1人が3人組で囲むような形となっている。
その中央に空いたポケットでベルギーのMFがパスを受けると、その背後から鷲が獲物を獲るような猛スピードでオーストラリアのMFがボールを奪う。
ショートカウンター発動と同時にオーストラリアのFW3人が一斉に前へ駆け上がり、ベルギーのサイドハーフが外に開いていたため、4対3の数的優位となっている。
フリーとなったFWがボールを受け取り、すぐにサークルイン。トップスピードのままシュートを放つが、一度はベルギーGKに阻まれる。こぼれたボールを逆サイドにいたFWが後ろに下がりながらの難しい態勢で豪快にヒットシュートを放ち、先制点を決める。
このシーンでは、ボールを奪ってからシュートまで5秒しかかかっておらず、オーストラリアの速攻が脅威であることを印象づけた。

[定量分析]

「プレスの積極性と高さ」守備開始時に、ボールに一番近い選手の動きを数値化したデータ。 すぐにボールに当たりに行く場合は積極的、行かない場合は消極的と判断し、積極的に言った回数の平均値を算出。また、プレスの高さはボールに一番近い選手が0~100ヤードのコートのうち、どこの高さにいるかをカウントし、平均値を算出。
「ボール奪取のサイド比率と高さ」相手からボールを奪った際のサイド比率(左右~中央)と高さ(0~100ヤード)を数値化したデータ。 サイド比率は、中央に近ければ0、サイドに近ければ100で表現している。
「インターセプトからPCおよびフィールドシュートまでの所要時間」相手からインターセプトでボールを奪った際のPCおよびフィールドシュートまでの所要時間。
という3つの指標を確認していきます。

上記のデータより、消極的なプレスで相手に一度ボールを回させ、自陣中央でボールを奪うことが多いことがわかる。ただし、23m侵入されている割にサークル侵入が少なく、サークルに入られる前にボールを奪えていて、堅牢な守りといえる。
また、インターセプトからシュートまでの所要時間がベルギーより短く、速攻を重点に置いていることがよくわかる。

さらに、
「ボール奪取サイド比率」相手からボールを奪ったサイド位置をついて、中央寄りであれば0%、サイド寄りであれば100%で示した指標。
「ボール奪取ライン高さ」相手からボールを奪った高さをついて、0〜100ydで示した指標。(自陣は0〜50yd、敵陣は50〜100yd)
をクオーター単位で細かく見ていく。

2Q目で3点差を得たオーストラリアは3Q以降はライン高めにシフトし、自陣に近づけさせない戦略をとっているように見受けられる。

特徴③ ゴールキーパーの優れたセービング

  • 2点差の状態で点数差を詰められたくない場面で、相手との1対1の場面でスーパーセーブを魅せて、ゴールを死守した。
  • 世界ランキング1位と2位という実力が拮抗する相手同士のためゴールキーバーのパフォーマンスが勝敗に大きく影響した。

[定性分析]

驚異的な反射神経によるGKのスーパーセーブ (0:54:43~0:54:51)

このシーンのオーストラリアGKのお手本のような動きとスーパーセーブに注目してほしい。
まずは、どのようなシュートにも対応できるように手を胸の高さまでハンズアップ。
ボールがルーズボールになりベルギーの選手がダイレクトシュートを放つわずかな瞬間に状況を判断し、一歩前に出て的確に間合いを詰めシュートコースを消している。さらに距離の近いシュートを抜群の反射神経により右手一本で枠の外にはじき出した。
基本姿勢、適切なポジション、シュートコースの限定、抜群の反射神経、これらをコンマ何秒の世界でいとも簡単に行うオーストラリアのGKはすごい!

[定量分析]

「GKセービング率」枠外シュートとDFがカットしたシュートを除いたシュート数(有効シュート数)のうち、GKが防いだ数。
という指標を確認していきます。

このデータをみると、オーストラリアのゴールキーパーが多くのシュートを防いでいることがわかる。
ベルギーは10本のペナルティコーナーを得るが、そのうち2本しか決めれていない。
オーストラリアGKの素晴らしいパフォーマンスがその要因と考えられる。

さらに、ベルギーのシュートコース、シュート位置、セービングした部位を細かく見てみました。

ゴール枠内に飛んだシュート7本のうち、6本がペナルティコーナーであった。
ベルギーの#16ヘンドリクスは、2019年シーズンのPCゴール数ランキングの首位(8本)であり、ペナルティコーナーでの失点をいかに抑えるかが重要なポイントである。
失点したシュートは、枠内ギリギリの1本とタイミングをずらされて足下に決められた1本だった。トップ選手のPC決定率(およそ30%~50%程度)を考えると決してGKのパフォーマンスは悪くない。
シュートコースを見ると少し中央に寄っており、ベルギー側の調子が悪かった可能性がある。

オーストラリアのコアファンにインタビューしてみた

コアファンは、オーストラリア代表についてどう思っているのでしょうか。
現在、オーストラリア代表選手と一緒に仕事をしており、オーストラリアに精通している方にアポイントを取ることができました。
その方にオーストラリア代表についてインタビューしてみました。

―― オーストラリアの強さの秘訣は?

国民性として前へ前へ、とにかく前へ行くスポーツが好まれているようで、Footy(オージーフッティ)が典型的。
理由として、よく冗談で言われているのが、オーストラリアにしか生息してない、人口より多いと言われているカンガルーが、前にしか進めないから。
ライン際ギリギリで前へドリブルしている時、ラインを割っていても、気づかずにドリブルしている時が多々あるようで、そこが国民性の違いであり、強さの秘訣だなと思います。

―― オーストラリアで一番好きな選手は?

ジェイク・ウェトン選手、
デュラン・ウォザースプーン選手・ロブ・ハモンド(元選手・現男子コーチ)

―― オーストラリアの戦術について、どう思いますか?

オーストラリアの戦術は各エリアごとに色々な約束事があると聞いています。
攻めに関しては、25ヤードに入ってから得点に至るまで、得点をするまで確率を上げるにはどうしたらいいか(どうしたら得点できるか)をかなり分析しており、興味深いです。

まとめ

今回は、戦術観点から男子オーストラリア代表を分析しました。
主観的なデータ、客観的なデータの双方から見て分かったことは、「シンプルな戦術こそ、一番強い」ということです。

今回の内容を振り返ると、
オーストラリアは、中央とサイドを織り交ぜながらコートを広く使って攻め、ショートカウンターではパス3本で相手ゴールに襲い掛かります。守備はサークル内に入れないように組織的に厚く守っていました。
コアファンのインタビューにもありましたが、個々の選手のレベルの高さ、戦術理解力の高さがあいまって、攻守ともに隙のない戦術となっていました。

シンプルな戦術であるがうえに、実際に戦うときにどう対処すればよいか悩みます。
戦術観点で見ていくと、あらためてオーストラリアは世界一の強いチームであることが分かりました。

はたしてオリンピックで対戦する日本はどのように戦うのでしょうか。
想像するだけでワクワクしてます。一年後がとても待ち遠しいです。

最後に、今回は客観的なデータとしてゲーム分析結果をいくつか紹介しました。
数字で裏付けていくことで、オーストラリアの特徴について納得度を高めることができたかと思います。
少し(かなり?)マニアックな内容となりましたが、ゲーム分析という切り口からホッケーに興味を持ってもらえると幸いです。

次回は、オーストラリアの注目選手をご紹介します。
世界一のチームには世界一すごい選手がいます。ヒントは「Moose(ヘラジカ)」です。お楽しみに!

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