来年の東京オリンピックにおける日本の対戦相手を紹介していく企画「メトロアナリストレポート ~ホッケーを10倍楽しむ!オリンピック出場チームを徹底分析!!」を進行中です。
今回は戦術観点から男子スペイン代表の特徴を読み解いていきます。
目次
戦術観点からスペインの特徴を読み解く
今回は「2020.2.7 FIH Pro League アルゼンチン対スペイン」を元に、スペインのホッケーを独自に分析しました。
「定性分析(数値だけで表しきれない主観的なデータをもとに行う分析)」「定量分析(数値データをもとに行う分析)」の双方の観点から戦術分析を行い、アルゼンチンの特徴を読み解きます。
分析結果
分析の結果、以下3つの特徴があることがわかりました。
特徴① 自陣でパスを多く回し、攻撃を組み立てる
- 自陣で細かくパスを回す
- 中盤がハブとなって攻撃を組み立てる
- サッカーのスペイン代表と近い戦術!?
[定性分析]
後半はじめから勢いよくプレスをかけてくるアルゼンチンに対して、隙を掻い潜るように中盤を使いパスを回すスペイン。
相手のディフェンスが寄ったところをフルバックにボールを返しながら、攻撃の糸口を探す。
チャンスを見逃さずMFが前を向き、テンポよくサイドへとボールをつなぐ。
[定量分析]
「エリア通過数」「逆サイド展開数×バックパス数」「個人パス数」という3つの指標から確認していきます。
エリア通過数(コートを縦4横3で12等分したエリアの通過数)の合計は、スペイン330本、アルゼンチン259本と、スペインの方が多いことがわかる。
また、自陣(0-25yd、25-50yd)の通過数が多く、自陣でパスを細かくつないでいる様子がうかがえる。
逆サイド展開数、バックパス数はアルゼンチンと比べてスペインの方が多く、アウトレット(サイドチェンジ)を中心にリスクを避けながら攻めている。
FIHプロリーグの公式記録(スペイン対アルゼンチン戦、オーストラリア対ベルギー戦)から個人パス数を確認したが、スペインの個人パス数が一番多いことがわかる。ミッドフィルダー(MF)を中心にパス本数が多く、中盤を使いながらゲームを組み立てる傾向がある。
特徴② 中盤エリアで囲んで奪う
- 中盤エリアで相手を囲み、ボールを奪う
- FWは積極的にバックディフェンス
[定性分析]
アルゼンチンのリスタートに、スペインの選手が素早く反応し、プレスをかけてアルゼンチンの攻撃スピードを落とす。
そこに、スペインFWがバックプレスを仕掛けて二人で挟みこみ、厳しくプレッシャーをかけて、相手に余裕を与えない。
結果、相手のミスを誘い、ボール奪取に成功する。
[定量分析]
「中央で囲んだ回数およびボール奪取成否」という指標から確認していきます。
スペインは中盤で囲むプレスを仕掛けているが、16回のうち8回も突破されている。人数を増やしてプレスをかけれている分、ここで突破されると数的不利となりピンチを招くこととなる。
特徴③ ペナルティコーナー(PC)狙いの攻撃
- ペナルティコーナーはスペインの得点源
- ペナルティコーナー狙いの攻撃が目立つ
スペインは自陣のフリーヒットからプレーを再開。前線への絶妙なスクープパスにより相手のFW、MFを一気に消し去る。
連携プレーで相手の守備を崩してサークルインすると、エンドラインからゴール前へセンタリングし、相手のミスによりペナルティコーナーを獲得する。
アルゼンチンの守備は1番騎はシューター、2,3番騎はバリエーションの警戒、4番騎とGKはゴールを守る布陣(1-3の陣形)。
対するスペインはダブルストッパーの布陣(シューターを2セット用意し、相手に的を絞らせない陣形)。
スペインのパッサーが左側ストッパーへ正確にパスを送り、#25ケマーダ が豪快にフリックシュートを放つ。
一度はアルゼンチンGKの好守に阻まれるも、リバウンドを#21ルイス が拾い、豪快なヒットシュートでゴールを決める。
[定量分析]
「PCポジショニング」「PCシュート位置」「PCシュートコース」という3つの指標から確認していきます。
ペナルティーコーナーは、ホッケーにおいて特に戦術要素の強いセットプレーである。
スペイン対アルゼンチン戦においては、スペインはフリックシュート(ボールを地面で引きずった後に浮かして飛ばすシュート)を中心にゴールを狙っている。スペインはシューターを2枚配置する攻撃陣形を採用しているが、すべてのシュートが左側のシューター(#25ケダーマ)がフリックシュートを放っている。
この試合に限らず、2020年1月〜2月のプロリーグ2020では19得点のうち11得点がペナルティコーナーであることから、スペインのお決まりの得点パターンとなっている。
まとめ
今回は戦術観点からスペイン代表を読み解いていきました。
データ分析を進めていく中で思ったことは、これまで見てきたオーストラリア、ベルギーと比べると、スペインには攻守における独特の癖があるようです。
中盤で囲むプレスについては、一試合あたり60回程度の攻守交代のうち、18回も中盤で囲んでプレスをしています。
しかし、18回のプレスに対して8回(50%)も相手に崩されており、詰めの甘さがあるように思います。
また、ペナルティコーナーは抜群の決定力を誇りますが、シューターとそのシュートコースに傾向があるようです。「ペナルティコーナーは、スペイン25番が打つ確率が高く、ゴール右上に打つ」ということは、ぜひ試合を観戦する際には覚えておいてください。
30年前に、ID野球(Import Data:データ重視)で名を馳せた野村監督は、データ分析から相手の癖を徹底的に読み解き、優位な状況をつくること有名でした。
今は、いくらでも動画が無料で見れる時代。動画分析するツールはいくらでもあります。
アマチュアでも分析できるようになった時代だからこそ、データ分析から何を読み解くか、どう生かすかが重要となっています。
ホッケーの楽しさは「ボールスピード」「攻守の切り替えの早さ」だけではありません。「戦術の駆け引き」の視点から観戦してもらえると、よりホッケーを楽しめると思います。今回の記事が参考になれば幸いです。
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